働く環境キャリア獣医師

2022.12.9

海外で活躍する獣医師が語る、海外と日本の違い

  • 海外

現在は、株式会社A’alda Singaporeで勤務し、インドを中心に動物病院の新規立ち上げに携わっていらっしゃる渡辺靖子(わたなべ やすこ)先生。海外の獣医学部を卒業し、その後国内で獣医師としてだけでなく、通訳・翻訳者としても活躍されるなど、さまざまな経験をお持ちの渡辺先生。

そんな渡辺先生に、さいとう動物病院の魅力だけでなく、獣医師としての働き方や海外と日本の違いなど、様々なお話を伺いました。–Vol.2:全2回

海外にある獣医学部の大学についても詳しくお話を聞かせてください。海外の大学の方がやはり受験の難易度や在学中のハードルは高いでしょうか。

渡辺靖子先生

渡辺先生

やはり英語で勉強しなければならないというのは、特に英語が苦手だった自分にはかなりハードルが高かったと思います。ただ個人的には、大学入学試験に必要だった科目(数学、物理、化学)の内容自体は、日本の受験勉強に比べれば優しかったように感じました。たまたま先生の教え方などと自分の相性が良かっただけかもしれませんが…。とは言っても、やはり獣医大学に入ることそれ自体が現地学生にとっても難関でしたし、大学入学後も毎年5〜10%ぐらいの学生が留年するような状況だったので、進級し続けるのも簡単ではありませんでした。

在学している間、日本とは交流がありましたか?

渡辺靖子先生

渡辺先生

長期休暇などのタイミングで年に1、2回は日本に帰ってきていました。また、日本とオーストラリアでは季節は逆ですが時差がほとんどありません。オンライン交流のツールやSNSを通じて、獣医学生同士が交流できる「獣医学生交流会(現:JAVS)」という団体に参加していたため、日本にも獣医学生の知人が多くの大学にいました。特に北里大学や大阪府立大学(旧:大阪公立大学)、岐阜大学、日本大学、またそれ以外の大学の学生たちと交流があり、大学を訪問して授業に紛れ込ませてもらったり飲み会をしたり、バドミントン大会に混ぜてもらったりしていました。

その時に海外と日本の大学の違いは感じましたか?

渡辺靖子先生

渡辺先生

大小いろいろな違いは感じました。例えば授業について、オーストラリアの方が自主性を求められていたと感じます。日本では各授業で出席がとられますよね。向こうは出席の確認はしないんです。別に授業に来なくても良いし、授業が録音されていたので、後から聴講することもできました。実習など一部の授業を除き、「講義を聞くために講堂にいたか」は問題ではなく、期末試験や提出物で実力が証明できれば進学ができるので、あまり学校に行かなくてもその単位で求められる実力があれば単位がとれました。なので、より自主性と計画性(セルフマネジメント)が問われる環境でした。また、学生の属性も多様でした。留学生が3、4割を占めていたし、「社会人枠」が設定されていたので30〜50代のクラスメートも多くいたし、さらにジェンダーという面でも普通に教員やクラスメートにLGBTQがいたし、本当の意味で多様性に恵まれた環境だったと思います。年齢、国籍、文化、性別、あらゆる側面でダイバーシティのある学校だった点は日本とすごく違うなって思いました。カリキュラム面でも、研究室がない、卒論がない、国家試験がないと国内の大学とは大きく異なります。卒業研究がない代わりに、5年生でローテーション(大学病院にて各科を巡回する)をやっていたので、より臨床に近い内容を在学中に学びました。

日本の学生は多くの場合、座学中心で卒業すると思いますが、海外ではより実践的な学びが多いという印象ですか?

渡辺靖子先生

渡辺先生

そうですね。私が卒業したオーストラリアのマードック大学では、卒業までに全員が診察から病理検査まで、臨床に必要な手技を一通り学びました。診察を実践する授業では、診察の様子を録画し「この診察のこの喋り方良かったよね」「この時はこうするべきだったよね」という風に学生同士でディスカッションする機会もありました。そういう意味ではかなり臨床に特化した授業もあったと感じます。卒業後すぐに患者様への対応ができるようなカリキュラムが組まれていましたね。在学中に避妊・去勢手術はもちろん、一部の外科手術も行いました。

オーストラリアの動物病院と日本の動物病院とで違いを感じますか。

渡辺靖子先生

渡辺先生

こちらも色々と感じます。
オーストラリアの診療費は日本と比較して非常に高額です。なので、保険に入ってないと経済的な理由で治療が難しいケースも多くなります。診療費が高額なことや宗教的、文化的な背景もあり安楽死を選択される方が多い、というか日本が諸外国に比べて極端に安楽死の選択を取ることが少ないと感じるのがかなり大きなポイントですね。 あと、日本の先生方は良くも悪くも『職人気質』だなと感じます。例えばオーストラリアの小動物医療で超音波検査ができるのは、専門医または画像診断に興味ある人に限られます。日本の場合、『誰でもできるようになるべき基本的な手技』に含まれていると思います。他の国だったら専門医や二次診療に回すような症例も一次診療で対応できる、二次診療施設並みの器具も揃えて技術を磨く、というのは日本の小動物臨床獣医師のすごいところであると思います。

医療水準という点ではどうでしょうか?

渡辺靖子先生

渡辺先生

判断基準や定義にもよりますが、あくまで個人的な現時点での印象では「技術面」では日本の獣医師や動物病院は非常にレベルが高いと感じています。先ほど言った超音波検査や手術など、いわゆる「手先の器用さ」「技術を磨く」系の観点ですね。また、医療機器や薬剤なども日本の水準は高いと思います。

オーストラリアで獣医師資格を取得したのちに、日本の資格を再度取得することは難しいのでしょうか。

渡辺靖子先生

渡辺先生

そうですね。海外の大学を卒業した人や海外で獣医師をしている人が日本の国家試験を受けるには、まず農林水産省に書類を出し、受験の許可をもらう必要があります。その段階ではじかれてしまった日本人の友人もいました。大量の書類の用意など審査の準備がすごく大変だった印象があります。毎年の国家試験で、そういう『海外勢(留学した日本人も、来日した他国籍の人も含む)』が日本の国家試験を受験して合格する確率は30%程度だったはずなので、日本の獣医学生が9割合格するのと比較すると難易度は高いのかもしれません。

渡辺先生のプロフィール

獣医師(オーストラリアと日本の獣医師資格所持)
  • 2010年 マードック大学(オーストラリア)卒業
  • 2013年〜 国内の複数の一般小動物病院にて臨床獣医師として勤務
  • 2016年〜 パートタイムで臨床業務に従事しつつ、通訳・翻訳などの活動を開始
  • 2020年〜 株式会社A’alda Indiaに入社、インドにおける小動物病院の新規立ち上げに従事
  • 2022年〜 株式会社A’alda Singaporeに配置換え

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